日本茶の味わい、魂と趣をすべてのお客様へ

こんにちは!版下太郎です。
東京オリンピック・パラリンピックは楽しめましたでしょうか?直前まで開催も危ぶまれましたが、無観客とはいえ無事開催されました。連日のアスリートたちの頑張りにより、私たち国民も大いに勇気を与えられた気がします。
一方で、新型コロナウイルスの第5波における新規感染者は減少し、9月末には各地の緊急事態宣言もようやく解除されました。ただ解除されたといっても、一年前を思うとまだまだ新規感染者数は高い水準にあります。また、年末に向けて第6波を懸念する声も聞こえてきます。早く本当の収束を迎えて、いつもの日常が戻ってくることを切に望みます。

さて、このブログも第9回目を迎えました。
今回は、江戸時代からの長い歴史を持つ株式会社前田園本店といちの葉株式会社の代表取締役をされている前田敏さんにお話を伺いました。

インタビュー/Interview
(株)前田園本店代表取締役:前田敏

―前田さん、こんにちは。今日は大変お忙しい中、お時間を割いていただきありがとうございます。まずは簡単に自己紹介をお願いします。
前田敏です。出身は北九州市若松区で、現在「株式会社前田園本店」と「いちの葉株式会社」の代表をしています。趣味はゴルフで、好きな言葉は「一期一会」「余情残心」です。

― 若松のご出身なんですね。子どもの頃はどのようなお子さんでしたか。
姉と弟に挟まれた三人兄弟の真ん中の長男として生まれました。幼い頃は、人見知りで、恥ずかしがり屋だったんですが、小学生になるとサッカーに夢中になり、チームではキャプテンもしました。その頃は、夜も自宅の庭で練習をするくらいのサッカー少年だったんですよ。

― 活発な少年時代だったのですね。そのサッカー少年だった前田さんですが、家業を継ぐにあたってのご苦労はありましたか。
苦労というか、20代になって、家業を継ぐために静岡、そして東京へ日本茶を学ぶ修行に行きました。修行先では年の近い社員の方と、茶工場、営業、小売りなどで一緒に働かせてもらい、先輩方にもかわいがっていただきながら、日々、茶についての勉強をさせてもらいました。また、この修業時代には、私の茶業の師匠になる人との出会いがありました。私が本気で家業を継ぐという覚悟ができたのは、師匠のおかげです。師匠には最も信頼を置いていて、今でも困ったときには相談させてもらっています。この修業時代に出会った人は、人生における私のかけがえのない財産になっています。

―家を離れた修業時代に、いい出会いがあったのですね。その後、北九州に戻られてからのことを教えていただけますか。
北九州に戻ってからは、仕事の他に地域の商店街やまちづくりの活動にも力を注ぎました。30代の頃には、街と人を繋ぐことをテーマにした「若松がんばろう会」を若松区の商店街を中心に立ち上げ、地域活動を活発に行っていましたね。商店街でビアパーティを開催したり、空き店舗を活用した浴衣の婚活パーティーを行ったり、市議会議員の方を招いた懇談会をしたり、街を盛り上げるために「若松忠臣蔵」というイベントを開いたりと色々やりましたよ。ちなみに、妻との出逢いもこのまちづくりがきっかけです。

―なるほど。それは公私ともにとても充実した時期を過ごされましたね。ところで、少し前田園のお話を聞かせてもらってもいいですか。
前田園は、もともと江戸時代の頃から博多下新川端にて、田代屋の屋号で商売をしていました。14代目の前田長次郎が福岡県直方市に移ったのが、筑豊の石炭産業が栄えるようになった明治30年頃のことです。その後、長次郎の息子である前田長吉が、筑豊貝島炭鉱にお茶を納めるなど、本格的に茶の製造を開始し、茶問屋「御茶乃前田」をスタートさせました。これが、現在のお茶製造卸会社「株式会社前田園本店」になります。

その後、明治45年に、長吉の弟の前田熊吉が、石炭の積出港で栄えた若松市に小売店を出店しました。これが、現在の北九州市若松区にある小売店「合名会社前田園」で、私の実家になります。

―前田園の歴史は、江戸から明治、そして令和と続いているのですね。旧本店が有形文化財になっていると伺っていますが、本当に老舗としての歴史を感じます。その歴史を担うのも大変ですよね。
老舗としての責任感というわけではないのですが、日本の伝統文化・和の心・趣を大切にし、本物をお客様に伝えて残していきたいと考えています。その思いから、2014年に「茶を論じる。茶で論じる。」をキャッチコピーにした、新しいスタイルのカフェ併設日本茶専門店「茶論(Salon du JAPON MAEDA)」をオープンさせました。

―伝統の心を現代にも活かす試みですね。とても素晴らしいと思います。
ありがとうございます。この「茶論(Salon du JAPON MAEDA)」では、定期的にお茶の淹れ方講座などを開催しています。お茶の淹れ方だけでなく、お茶の種類、歴史、効能・効果も勉強していただき、最終日には筆記・実技試験も実施、試験の合格者に卒業証書とメンバーズカードが発行するなど、本格的な講座になっています。
一人でも多くの人に日本茶のよさを知っていただきたいという願いを込めて開いている講座ですが、嬉しいことに、生徒の皆さんが日本茶や当店のファンになってくれています。メンバーになると、カフェや物販が割引価格になったり、限定販売の貴重なお茶や茶器の特別価格販売があったりするなど、様々な特典も受けられるんですよ。
また、この卒業生のメンバーだけが受けることのできるオリジナルブレンド講座もあります。日本茶が合組(ブレンド)でできているということをしっかりと理解している卒業生だけが、品種の単品から自分でブレンドし、自分好みのお茶を作ることができる講座です。パッケージのデザインもオリジナルでできるので、とても人気があるんですよ。

―「茶論(Salon du JAPON MAEDA)」は、ただお茶を販売するだけではなく、お客様にお茶を知ってもらう場であり、そしてその知ってもらったお客様とのつながりを大切にする場でもあるのですね。
そうですね。今では至る所にできている日本茶カフェですが、当時、このような日本茶専門店はありませんでした。その中で、人目につかない路地裏の古民家をあえて選んで造りました。まだ古民家再生が今ほど知られていない頃の話です。その「茶論(Salon du JAPON MAEDA)」もオープンから早7年が経ちましたが、今でもメンバー様だけでなく、常連様にもずっと通っていただいています。また、「ずっと来てみたかったんです!」と言って、新規のお客様がお見えになることもあり、大変ありがたいと思っています。コロナ禍に入る前の年に、メンバー様や常連様、私たち夫婦を支えてくれている友人などを招いて、5周年記念パーティーを行いましたが、商売はお客様や周りの支えがあってこそ続けられるのだなと改めて実感いたしました。

―人と人とのつながりが大切ということですね。次に今後の方向性についてお聞かせいただけますか。
平成に入り徐々に日本茶離れが進み始めました。専門店ではなく、スーパーでお茶を買う方も増えたり、2000年頃からはペットボトル入りのお茶の流行もあったりして、リーフ需要が減少しました。その影響で地域のお茶屋さんもすっかり少なくなり、当社も地域のお茶屋さんへの製造卸をする仕事から、抹茶やほうじ茶を原料とする食品メーカー様への卸に徐々にシフトしてきました。また、お茶屋さんよりお菓子屋さんの方が、詰合せ商品として、お茶のティーバッグなどをよく使って下さるようにもなってきています。
その他にも抹茶やほうじ茶を使った、菓子・アイス・ドリンクのブームによる大きな需要が出てくるなど、お茶を取り巻く情勢は常に変化しています。
我社でも、以前は放っておいてもお茶が売れる時代がありました。私が茶業界に飛び込んだ頃も、まだお茶屋が工夫せずとも売れる時代でした。こうした時代の変化に対応しつつも、日本茶という分野からはブレることなく、しっかりと暖簾を引き継いでいきたいと思っています。

―基本はお茶に置きながら、時代に合わせて柔軟にということですね。
そうですね。それと関連するのですが、2009年に「いちの葉株式会社」という会社を起業しました。この会社は、「もっとお茶に出来ること」をテーマに、お茶を使用した商品、茶関連商品の企画・開発・卸をしています。起業のきっかけは、「お茶石鹸」でした。シャボン玉石けん(株)様との協同開発になりますが、お茶の中から茶カテキンだけを抽出して、無添加せっけんに配合し、お茶の持っている殺菌・消臭効果を最大限利用した商品です。これは「お茶石鹸」のブームの先駆けになりました。

実は、「茶論(Salon du JAPON MAEDA)」も、開店当時はこの別会社で始めたんですよ。ここでのヒットメニューは「抹茶ビール」ですが、これも日本茶業界では火付け役になりました。 暖簾を引き継ぐ「前田園」とは違い、「いちの葉株式会社」では 「お茶石鹸」や「抹茶ビール」など、 思い切った企画やデザイン、お茶を活かした商品開発に力を入れています。また私の右腕として働いてくれている妻の存在は欠かせません。出逢いは、私が「いちの葉株式会社」を立ち上げてすぐにの頃で、それからずっと共に仕事をしてくれています。妻は建築デザインやまちづくりといった仕事をしているので、私とは全く違う視点から意見を出してくれる貴重な存在です。この10年、常に新しいことに思い切って挑戦し続けていられるのも、同じ方向を違う角度から見てくれている妻がいるおかげです。

―前田さんのバイタリティ溢れるご活躍の陰には、奥様の大きな力があるのですね。それでは、最後にライフワークをお聞かせいただけますか。
常に新しい企画を立ち上げることや商品開発のパイオニアとしてあり続けることが、私の茶業界に対してできる仕事だと考えています。そして、私自身、今後も一人の茶師として、 生涯現役で日本茶の美味しさや伝統、可能性を少しでも多くの方々へ伝え残していけたらと思っております。

プロフィール/Profile

前田敏(まえだ さとし)
北九州市出身。
趣味はゴルフ、好きな言葉は「一期一会」と「余情残心」
1994年 合名会社前田園入社(2014年まで専務)
2009年 いちの葉株式会社を起業
2016年 株式会社前田園本店 代表取締役就任
現在に至る

株式会社前田園本店
・日本茶の製造・卸業
本社・工場
〒822-0017 福岡県直方市殿町9-9番33号
TEL: 0949-22-0739
工場直売店 KANECHOU MAEDAEN(カネチョウマエダエン)
〒822-0017 福岡県直方市殿町9-9番33号
TEL: 0949-24-6800
古町店
〒822-0027 福岡県直方市古町6-16
TEL: 0949-22-4809
URL:http://maeda-en.co.jp/

茶論(Salon du JAPON MAEDA)
・日本茶・和カフェ・和雑貨の販売
〒802-0076 福岡県北九州市小倉北区中島1-15-3
TEL: 093-512-3077
URL:http://salondujapon.com/

いちの葉株式会社
・ 「もっとお茶にできること」 をテーマに、日本茶を使用した商品、茶関連商品の企画・開発・卸
〒802-0076 福岡県北九州市小倉北区中島1-15-4